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 ヴォー=ル=ヴィコント城の庭園  Château de Vaux-le-Vicomte 

「フランス平面幾何園」は、 ヴォー=ル=ヴィコント城の庭園で開花した。それより、1世紀~半世紀前に、ルネサンス誕生の地イタリアでは、庭園の基礎となる主要なツールが完成していた。①アクス(軸線)、②水の利用、③刈り込み、④階段、⑤プランターや彫刻の利用、⑥眺望点、⑦周囲を囲むボスケなどである。アクスが左右対称の整形庭園を生み、水の利用は、丘に作られた庭園が多かったので、カスケードや噴水を生み、刈り込みは、幾何学的模様の低木と、中高木との対比を生んだ。階段は、丘に作られたイタリア式庭園では、必須のものだった。プランターには季節の花を植え、大理石の彫像は芸術性を加えた。展望台からの景色を楽しんだり、周囲を林で覆って庭園を囲むことで風景に区切りをつけた。このうち、平坦な地形のヴォー=ル=ヴィコントの庭園で再現・進歩したのは、①長さ約1kmの庭園を貫く巨大なアクス、館からは見えないが、長さ約900mの(アクスに直交する)カナル、③館に近いほど細かく、遠くなると区画が大きくなる刈り込み、⑤一列に並んだプランター、⑦庭全体を囲む自然の森である。

1枚目の写真は、館から1km先の丘の上に立つ10000枚の金箔が貼られたヘラクレス(Hercule)の像(高さ5mの台座上に立つ高さ6mの銅像)。これが、庭園を支配するアクス(軸線)の焦点(①)。2枚目の写真は、カアクスの右側のカナル。なぜか館から見えないように、2階分くらい下げてある。3枚目の写真は、館の近くの低木の繊細な刈込み(③)。円錐や球状の中程度の高さの濃い緑色の木がそれを囲んでいる(⑦)。4枚目の写真は、一列に並んだ大きなプランター(⑤)。
 
 
 
 

これを作り上げた天才的造園家は、アンドレ・ル・ノートル(André le Nôtre)。城館を担当した建築家のルイ・ル・ヴォー(Louis le Vau)、館内の美術を担当した画家シャルル・ル・ブラン(Charles le Brun)の3人。財務総監(Surintendant des Finances、1653~61年)のニコラ・フーケ(Nicolas Fouquet、1615~80年)のために豪華な城と庭園を作った(1656~61年)。そして、歴史上有名な1661年8月17日。フーケ(46歳)はルイ14世(22歳)と約600名の延臣と高級娼婦を招き、城で豪勢な祝賀会を開いた。国王を遥かに凌ぐ豊富な資金力に激怒した若きルイは、9月5日にフーケを逮捕させ、公金横領と不敬罪で裁判にかけた。1664年12月21日の判決で、フーケはピネロロ要塞での終身抑留となった(1680年死亡)。祝賀会での様子は、19世紀の小説家アレクサンドル・デュマの『ブラジュロンヌ子爵』の一分冊、『鉄仮面』の中で詳細に描かれている。それ以後、ルイ14世の造園家となったル・ノートルは、ヴェルサイユ宮殿の庭園、ルーブル宮の前のチュイルリー(Tuileries)庭園の整備、フーケを敵視していたコルベールのソー(Sceaux)城の庭園などに携わる。

フランスで、私がパリ以外に何度も訪れた場所は、一位がシャルトル大聖堂の4回、二位がヴォー=ル=ヴィコント城庭園、城塞都市カルカソンヌ、ポン=デュ=ガール、シュノンソー城の3回。ヴォーのどこが好きか? それは、アンドレ・ル・ノートルの最大の傑作だから。古代庭園ならハドリアヌスの別荘にあるカノーポス、中世の刺繍花壇ならアルビのベルビ宮殿、イスラム庭園ならグラナダのアルハンブラ、イタリア露壇園ならランテ荘、フランス平面幾何園ならここヴォー=ル=ヴィコント、その後のイギリス自然風景園ならストウ、日本庭園なら桂離宮、現代ならパリのアンドレ=シトロエン公園がベストだと思っている。だから、ヴォー=ル=ヴィコントへの思い入れは深い。最初の訪問には妻を、その10年近く後にはNHKのエグゼクティブアナウンサーと解説委員を、さらにその4年後には母を連れて行った。

以下、様々な写真を並べてみた。1枚目の写真は、一度くらい城館を見せないと失礼かと思い、城館と、四角錐に刈り込んだ木と、彫像の3点が揃ったものを選んだ。王城ではないので思ったより小さいが、背後には召使いのための建物が長く連なっている。2枚目の写真は、ヴォー=ル=ヴィコントで最初に使ったそっくりだが、撮った場所が城館の階段の上からではなく、庭に出てヘラクレス像にもう少し近づいて撮ったもの。だから像がはっきり分かるし、観光客も少しはいる(さっきはほとんどいなかった)。3枚目の写真は、アクスの始点から570mの所で左右に配置されたカナルの前で、全高11mのヘラクレス像を撮ったもの。かなり大きく見えるが、それでもまだ小さい。庭園のスケールの大きさが良く分かる。4枚目の写真は、カナルには橋が架かってないので、端まで行って迂回してから丘を登り、ヘラクレス像の前から城館を撮ったもの。庭園は、こちら側から見るようには作られていないので冴えないが、①城館も含めてボスケ(背景の森)に囲まれている、②召使いの建屋がすごく多いことが分かる。5枚目の写真は、カナルを近くから撮ったもの。結構、荒々しい。6枚目と7枚目の写真は、アクスから離れた庭園の隅にある小庭園。王冠はルイ14世の来訪を祝してのものか? 仲良さそうな雄と雌のライオンは何かを象徴しているのだろうか?